御神渡りは恋の通い路 (1)
| (1) 野辺山 厳冬物語 | (2) 諏訪湖の御神渡り |

ときは2003年2月初旬。長野県は八ヶ岳ふもとに広がる高原地帯、野辺山の明日の予想最低気温 -20℃。零下20度! これで行くのは決まった。
結氷した湖を好奇心いっぱいに歩き回る おじさん・おばさん集団 凍った湖の上を歩く人たち 長野県諏訪湖にて
話は諏訪湖に始まります。野辺山から数十キロ北西、諏訪盆地に広がる諏訪湖は1月中旬に“御神渡り”(おみわたり)が5年ぶりに観測されていました。この御神渡りとは、湖面に張った氷が昼夜の寒暖差で収縮膨張を繰り返すことにより、湖面の一部に亀裂が入り隆起。その氷の盛り上がりが連なる様子が、あたかも神様が通ったあとのように見えることから、そう呼ばれます。神の足跡をこの目でゼヒとも見たーい!

しかしその後気温が平年並み以上に上がる日が続き、御神渡り消滅か?との噂を小耳にはさみました。今でも残っていると確認できないことには行く踏ん切りがつかないよ、と思っていると冒頭の予報をキャッチ。氷点下20℃ともなれば、空気中の凍った水蒸気が太陽光にキラキラ反射する細氷(ダイヤモンドダスト)が見られるやもしれないし、同時に諏訪湖にも足を延ばせる。と寒冷地マニアの血がにわかに騒ぎ、お出かけを決めたのは前夜のことでした。


中央自動車道は山岳パノラマ道
 山梨県双葉町

まだ夜も明けぬ時間に起きると、当地では氷が張るか張らないかという物足りない気温。そんな関東南部からクルマでホンの2、3時間走っただけで20度もの気温差があるのも、空にフタがしてあるわけでもないのに冷気がよく混ざらないものです。とはいえ中央道に乗り、東京郊外のベッドタウン八王子を過ぎ、人家がぱったりとなくなる山岳地帯に入った途端、沿道の斜面に残雪がチラホラ目につきだし景色が一変しました。広い平野に恵まれ、都心を中心にどこまでもダラダラと住宅地が続きがちな東京圏も、中央道方面はその境目が明確です。

甲府盆地に入る頃になって周囲が薄明るくなってきました。先を急ぎたいけど、人間をやっている身分ではどうしても外せない所用ができ、甲府市街の西外れに位置する双葉SAにてひと休み。

用を済ますとSA片隅にある展望台が目に入り、階段を登ってみれば甲府盆地と富士五湖を分け隔てる御坂山塊の稜線から、今まさに太陽がオハヨーするところなのでした。

山の稜線からのぞいた太陽
雪を頂いた峰々が朝日を浴びて赤く輝く
御坂山塊の背後からオハヨウさん
八ヶ岳連峰(2899m)

北に振り返れば、優雅なすそ野と人を拒むかのような険しい主峰・赤岳の硬軟織りなすコントラストが印象的な八ヶ岳連峰が朝日を浴びて荘厳な輝きを放ち、西の方角にも朝日に輝く南アルプス・甲斐駒ヶ岳の姿が。その猛烈な美しさに見とれそうになりつつも、おっといかんいかん。のんびりしていると気温が上がっちゃう。あの八ヶ岳手前に広がる、海抜1,300m超の野辺山高原目指してレッツらゴー!

甲斐駒ヶ岳が朝日を浴びて赤く輝く
南アルプス・甲斐駒ヶ岳(2967m)


気温があまり下がっていない!?
 山梨県須玉町

須玉ICで降り R141 を走っているとまだ朝早いというのに、いかにもスキーをしに行きまーす!という装いのクルマでそこそこ交通量があります。一方こちらは県外ナンバーにもかかわらずスキーもボードも積んでおらず、謎の雰囲気を醸し出しながら、車内でこっそりつぶやく言葉は「寒中もうで...」

ところで海抜およそ400mの須玉ICで降りた時点で、外気温は氷点下で当然のハズが、クルマの計器盤に表示された値は 1℃。ドアミラー部で感知されるそれは、直射日光にさらされたり、エンジンの熱気を感知したりと、経験上実際の気温より数度ほど高く表示されるのが常とはいえ、それでもまだ高すぎる気も。もしや今朝は予想気温ほど下がっていないのか。ここまで来た今となっては、八ヶ岳のすそ野をひたすら上ってゆく以外にありませぬ。


野辺山高原 厳冬物語
 長野県南牧村

インター周辺にはほとんど雪がなかったけど、30分足らずで清里のあたりまで来ると、いよいよ来ましたと思わせる一面の銀世界。夏は原宿が引っ越してきたかのような様相を示す清里も、この時期だけは名前の通り清らかな里となり、ひっそり雪の下で春を待っています。外気温も -8℃まで下がりました。

そして気づかずに通り過ぎがちな県境を越えて、ついに長野県のJR小海線野辺山駅前へ到着。ときは午前7時40分。日の出から1時間近く過ぎちゃったけど、さあ気温は... -14℃!

クルマの計器盤が-14度を表示している
青空の下の駅舎
実際の気温はこれよりさらに低いのであった
JR最高所の駅 野辺山駅 (1345.67m)

【補足】公式観測データでは午前7時は -19℃、午前8時は -17℃で、やはりクルマの外気温計は高めに表示されていました。ちなみに午前6時には予報通り -20℃まで下がったようです。


参考資料 ▼気象庁 アメダス 長野県 観測データ

野辺山駅前は一大観光エリアにもかかわらず、昔から数軒のみやげもの店しかなく閑散としています。地名が地味なだけでお隣の清里とはこんなにも対照的になってしまうのですね。

クルマの暖房で完全に体が温まった身で外を歩き回れば、キーンと張りつめた空気が肌に心地良く、日差しのせいもあってか、すがすがしさすら感じるのでした。駅舎前には “JR最高駅 野辺山” という碑が建てられており、閑散とした駅前に立てば幸いにも美しい八ヶ岳だけが目立つ結果となり、まさに碑の通りJR最高駅!な気分になります。

駅前は人家が建て込んでいない
ひざ下まである雪が除雪されていない
野辺山駅前から見た八ヶ岳
農道につながる駅近くの踏切
雪に埋もれて役目を放棄中。警報機は鳴るけど遮断機は下りない。やる気があるのか無いのか、どっち?

雪と氷に閉ざされた野辺山高原風景

野辺山は太平洋側の気候に属するため、晴天率が高く積雪は少ないところ。そのかわりに放射冷却で気温が -25℃以下まで下がることもある、長野県の中でもとりわけ寒さが厳しいところです。

今回は -20℃近くの低温&太陽&無風と、ダイヤモンドダストが発生する条件は揃っていたのだけど、晴天が続いて湿度が足りなかったらしく、その幻想的な現象を見るのはかなわぬ夢に終わってしまいました。しかしあまりに外気温が低いものだから川から水蒸気が立ち上っており、一瞬こんなところに温泉が流れていると錯覚しました。

あるもの全てを凍えさせ、あるもの全ての輪郭をクッキリと浮かび上がらせる。厳しさと美しさが背中合わせの冬の野辺山高原。


〜 次ページへ続く 〜





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